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【本】 ルート66をゆく 新潮新書

  • 2007-09-01 (土)

【本】ルート66をゆく 松尾理也.jpg

仮説検証のための現地情報、現地取材の面白さを教えてくれる好著

筆者は2004年のブッシュ大統領再選が、なぜ起こったのか。 リベラルからすると、アホなブッシュがとなるがどっこい保守のロジックはそんなものではなかったはずというのが、松尾記者の推定であった。 では、それを見極めるには「保守票」の根幹を成すルート66を選び、現地を取材することで、沢山のことに気が付く。 しかもそれらは日常的には報道されたり、大きく取り上げられることのない、思想や生きる規範が絡んでいることを見出す。

2004年の大統領選挙はRedとBlueのStateは、見事に東西湾岸の大都市圏がBlue(民主党)中西部、南部も含めてRed(共和党であった)
http://en.wikipedia.org/wiki/Red_states_and_blue_states

2004年の大統領選挙での争点は、とりわけ中西部の人々にとっては目先の補助金や仕事が増えるという経済原理よりも、人は何のために生きるのかというような、思想的な価値観が判断の基準だった。 それはルート66に実際に行ってみると、各地の教会の集客力のすごさが実感としてわかるし、そこにコミュニティーを求めてくる人たちも多い。 米国は他のキリスト教国に比べても協会への参加率が高いというデータがある。 週に一回は教会に行く人々は次のようになっているという。

UK27% 仏21% US44%
教会の中には、進化論を「科学的な証拠がない」ということで否定し、学校で教えないように訴えたところもある。 中西部は民族的にはドイツ・北欧系が多く、かなり強いまとまりを持つ。 Intelligent Design IDという、宗教ではない立場で人間が創造されたと言う考え方も知られるようになってきている。 この部分は、反進化論は法廷では負けたので、学校の授業で教えることはできなくなったが、論争は今でも続いている。

またイラクやアフガニスタンでの戦争では米国の正規軍(陸・海・空・海兵隊・沿岸警備隊)のほか州兵の出動が多くなっている。 参加した兵士達に対する地元の精神的な支援というのは、とても強固なものがある。 これは、特に兵士個人への尊敬を中心に考えられている。 たとえ戦争には反対でも、兵士への尊敬は忘れてはいけないし、帰還兵の慰労会は必ず行われているという。 中西部はその意味で、草の根保守を基盤に持っていることがわかる。

思想的な点からは特記できるのは、米国では学校での教育ではなく家庭でホームスクールという形での教育が認められている。 これを実行する親達は比較的裕福で思想的には自由を尊重する立場の人が多い。 自由、独立を追求してゆくとたどり着くひとつの帰着点で、中西部ではこのホームスクールが増えている。

中西部の人たちが尊敬するのは、レーガン大統領である。 1981年レーガンの演説のなかにある「政府は問題の解決策ではない。政府こそ問題なのだ。」という言葉こそ、彼らの心を揺さぶるものはない。 米国設立の原点といっても良い。 それが保守の源流であり経済保守と社会保守が中核にあるのが米国中西部である。

2004年 ブッシュの勝利は経済原理の合理性でなく、原則にどれだけ忠実かという反知性主義の勝利といえないこともない。敵か味方か、中間なしという考え方はそれを基底にしている。

米国の思想的な背景を持つルート66であるが、道沿いのモーテルは現在では移民の経営が多い。 しかし60年代の、西に向かう未知への冒険ルートはこの道沿いにしかなかった。 現在ではメキシコ国境を越える不法移民も多く流入しているし、移民制裁を決めても、一筋縄では問題は解決しない。

ポピュリズム(人気取り)ということで評価することがルート66ではむずかしいことなのかもしれない。 スタインベックが 母なる道=ルート66と書いているように、北から逃げてきた・時代に苦しみながら生きてきた人たちの道であり、ChicagoからLAまでの道が米国の変化の象徴であるということだろう。 この道には、50年代 良きアメリカ
60年代苦悩のアメリカが今でも刻まれている。

現地の取材を、地域のイベントに参加したり、名前のわかる「人」の話として聞いているところが、とても丹念な内容になっている。 日本ではあまり知られることのないしかし、米国本流の思想の原点があることを、十分に感じることができる。 この本を読むと、実際にルート66に行ってその雰囲気を感じてみたくなる。 多分、シリコンバレーと同じように、米国と思っている部分と違うところが感じられるに違いないと思った。 日本のマスメディアの記者の立場を超えて、現地の情報を盛り込んだ好著だと推薦できる。

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