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【本】 ザ・トヨタウェイ J.K. ライカー

  • 2007-10-12 (金)
丹念にデータを取り、現場で取材した米国大学教授が書いた本

TOYOTAは米国のミシガン州にテクニカルサポートセンターを持ち、全米の工場に技術や経営思想を教えている。 この本は上下2巻から構成される。ザ・トヨタウェイ(上) ザ・トヨタウェイ(下) 著者の、ライカー氏はミシガン大学の教授で、TOYOTAの研究をもう20年以上やってきている。 著者も前書きで述べているようにこの本は、その経験を集大成したもの。 私にとっては、藤本隆宏教授の能力構築競争-日本の自動車産業はなぜ強いのか 中公新書の米国人研究者の研究成果と見える。 この本の中で、ライカー教授はTOYOTAはHONDAともNISSANとも全く違う高い行動レベルであるという。本書は、日本の自動車産業をTOYOTAという切り口で、米国的な視点で見た書物である。

ここにまとめられているのは、項目を整理すると、つぎの14の原則としてまとめられている。 今後の日本的でありかつ国際的な経営を考える上で、とても参考になる項目ばかりである。 トヨタ生産システム(TPS)とこの原則、トヨタウェイがDANの二重螺旋になっているというわけである。 原則を列挙すると次のようになる。

原則01 短期的財務目標を犠牲にしてでも長期的な考えで経営判断をする
原則02 淀みのない流れをつくって、問題を表面化させる
原則03 プルシステムを利用して、つくり過ぎのムダを防ぐ
原則04 生産量を平準化する(ウサギではなく亀のペースで仕事をする)
原則05 問題を解決するためにラインを止め、品質を最初からつくり込むカルチャーを定着させる
原則06 標準化作業が絶え間ない改善と従業員の自主活動の土台になる
原則07 すべての問題を顕在化させるために目で見る管理を使う
原則08 技術を使うなら、実績があり、枯れた、人や工程に役立つ技術だけを利用する
原則09 仕事をよく理解し、思想を実行し、他人に教えるリーダーを育成する
原則10 会社の考え方に従う卓越した人とチームを育成する
原則11 パートナーや部品メーカーの社外ネットワークを尊重し、改善するのを助ける
原則12 現地現物を徹底的に理解するように自分の目で確かめる(現地現物)
原則13 意思決定はじっくりコンセンサスをつくりながら、あらゆる選択肢を十分検討するが、実行は素早く行う(根回し)
原則14 執拗な反省と絶え間ない改善により学習する組織になる

これらの原則論が「レクサス」の開発、「プリウス」の開発事例でどのように利用されたかが、書かれている。 人を選ぶところが一番のポイントであり、その人を育てるDNAが豊田佐吉から連綿と続いていることが大きな特色であることが読み取れる。 数年前になるが当時のGEの社長のジャックウエルチが日本で講演を依頼されると「日本にはTOYOTAという素晴らしいお手本があるのに、なぜそちらを学ばないのですか?」とよくたずねたという。 GEは米国で最適化された会社。 TOYOTAは日本で磨かれた会社ということになる。 本当の原点は、原因と結果は現場でしか確認できないということがDNAになっている。 その解決手法を切磋琢磨してきているのであるから、藤本隆宏教授の著書ものづくり経営学―製造業を超える生産思想 (光文社新書 293)にある「擦り合わせ、つくりこみの製造業」は日本が先頭になる実力があることがわかる。 いかに擦り合わせ技術を作り上げてゆくか、直近の課題である。

偉大な仕組みをつくった企業という点でTOYOTAは素晴らしい企業である。 次代の経営者がそのエッセンスを学び実際に適応した企業経営を考えるには、示唆に富んだ書物である。シリコンバレー的観点で見ると、「原則9 仕事をよく理解し、思想を実行し、他人に教えるリーダーを育成する」とか「原則11 パートナーや部品メーカーの社外ネットワークを尊重し、改善するのを助ける」のようなWin-Win構築が見て取れる。 以前のブログで書いたが、日本で唯一つ、時価総額が25兆円の会社でシリコンバレーのどの会社の時価総額より大きい。 言い換えると、日本のほかの企業は、シリコンバレーのいくつかの企業にすら追い越されているということである。 この「原則14 執拗な反省と絶え間ない改善により学習する組織になる」にもあるように、日本企業はもっと学ぶ仕組み、学んで実行する仕組み、そしてネットワークを拡げる仕組みなどへと拡げるべきである。

先日、北米TOYOTAの専務がCryslerに転職したと思ったら、今度はVPがFordに引き抜かれている。 米国が先行した自動車業界でTOYOTAの経営方式をもった人たちを奪い合っているわけである。 本書の中にも書かれているが、米国はトップを変えることにより、仕組みや方向を急激に変化させることで、会社の体質を変えようとする。 いわばカンフル剤であるが、このような手本がTOYOTAにあるということは、日本的な経営の良さが評価されているわけである。 しかしこれは、日本的経営だからいいのではなく、考え抜かれ、つくり込まれたところに価値がある。 すなわち、今の経営者は、新しい経営を考えるまたとないチャンスがあるということである。 この視点が抜けると、旧体制奉賛大合唱になる。 この足音も、聞こえてきているので、心しないと日本の将来は開けないと私は危惧している。

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