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【本】 育てる経営の戦略 高橋伸夫著

  • 2007-10-19 (金)
この本の副題は「ポスト成果主義への道」

高橋教授の本は、虚妄の成果主義が含蓄が深く面白かったので、今回はそれに続く“育てる経営”の戦略―ポスト成果主義への道 (講談社選書メチエ)を読んだ。 能力主義、成果主義と、90年代に騒がれて久しいが、日本の会社で「成果主義」で成果を出した例は、成果主義の導入を勧めた「コンサルティング会社」ですら「成功例は挙げられない」という。 会社の経営に関することであるから、笑って見過ごすわけにはいかない。 高橋教授によれば、成果主義がダメな例は、欧米でのここ100年間の研究を見ればすぐ分かるという。T型フォードの発明も含めた、近代生産方式の確立も含めて研究されてきているわけである。 (高橋教授は、成果主義については90年代後半から批判していたので、後出しジャンケンでの論理ではない)

この本に「仕事に対する動機付けの」面白い話が出てくる。
一つは、大学生にパズルをさせる実験である。 大学生をA,B2つのグループに分けて、それぞれパズルを解かせる。 Aはパズルを解くと1ドルもらえる。 Bは報酬はない。 全部で4回やらせるが、2回目が終わったところで、休憩時間を入れる。 その時に、学生の行動を見ているとAのグループでパズルを解く人の数はBの(無報酬の)パズルを解く人の数より圧倒的に少ないという結果が出たそうだ。 パズルを解く楽しさに、お金が介在すると、目的が変わってしまうわけだ。

もう一つの例は、もっと面白い。 米国のある街で、ユダヤ人が店を始めたところ、近所の子供達が嫌がらせに来て、店の前で大声で悪口を言ったそうだ。 困ったユダヤ人は、黙ってもらうために、来た子供達に10セントを渡して、帰ってもらった。 次の日もまた来たので、今度は5セントで我慢してもらって、帰ってもらった。 3日目には、お金がないからと1セントで帰ってもらった。 そして、4日目には、もうお金はあげられないということにしたら、それから子供達は悪口を言いに来なくなったという。 この解釈も「お金の持つインセンティブ」があまりに強いため、子供達の関心が、悪口よりもお金に移ってしまうことになる。 だから、成果主義が(縮小する給与原資の再配分を意図しながら)成果と報酬の連動という形で従業員に提示したことは「日本的な経営の持っていた、動機付けの仕組み」を壊してしまったというわけである。 

それは見かけ上「客観性を装った、責任回避」で、社内の「上下関係の相互信頼関係の破壊」で、「会社の次代を担う人を、造りにくくしてしまった点」にあると解析している。 成果主義をこわして、もともと日本が持っていた「年功主義」(年功序列ではない、年功を伝える仕組み)に戻すことが肝心と説く。  高橋教授はWebでも開かれた活動をしている。 ちょっとチェックしてみたが、年会費の設定が、硬直化しているので来年1月はじめに申し込むのがお得ということになる。

では、何が日本の会社の従業員のモチベーションか? 次の仕事の(面白さ)であると説く。 確かに、シリコンバレーでビジネスを立ち上げた人たちは、お金には不自由していないはずなのに、チャレンジを続ける。 それは、お金だけが目的では説明がつかないし、彼らに投資しているベンチャーキャピタリストはきっぱりという。「お金目的のベンチャーは成功しない」とまで。 このような要素を考えるにつけ、日本的な考え方をもっと真剣に考え、トライすることは重要だと思う。 

長年にわたる世界の自動車産業の研究から、藤本隆宏教授の「ものづくり経営学」が生まれてきているが、日本の得意とする擦り合わせプロセスが日本の企業の強さの基盤にあることが挙げられているし、きめ細かな組織活動に関しては「日本的発想」は大いに力があることがわかる。  これからは、経営方針を大胆に持ったTOPが、社内外の相互連携をスムーズに行い、前進あるのみではないか。 方針は決まった、あとはTOPが自ら先頭に立って進むことが、日本的経営の要ということになる。 

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