【復刻】 098 目利きと、プロ 20000220

米国の株式市場を見ていると、良くもまあ高い株価を維持できるものだと感心します。それをネットバブルと呼ぶ人達も、少なからずいます。今回は、なぜ米国がこのような経済活性化を成し遂げたのかを見たいと思います。特にシリコンバレーは21世紀型ビジネスモデルとして起業の創出に大きな役割を果たしています。それをつきつめてゆくと、個性の尊重が大きな役割を果たしている事がわかります。これを、検証してみたいと思います。日本でも、思想としてはなかなか面白いものがある事も、あわせて検討してみたいと思います。

早い、高性能そして安い
これは、シリコンバレーで起業する事業の一番特色的な事です。仕事は早く済んだ人が大きなビジネスチャンスを持ちます。これは当たり前です。そして、同じような製品であれば、高性能なものが、やはり大きなビジネスチャンスをつかみます。そして、最後が決定的にすごいのですが、それらの中で一番安いものが、市場を制覇します。これは、アイデアの具体化、事業の質の向上、そしてコスト構造の逓減化というプロセスを同時にやってしまうわけです。どこの企業もすべてやりたかったことが、シリコンバレーでは自動的に出来てしまうのです。これは、なぜでしょう。

やってみなはれ！が原点
このモデルが動き出すのは、ただひとつ、「やってみなはれ！」という一言にあります。この言葉で、リスクを取る人達が、まっしぐらに進んで行きます。時間を無駄にしない彼らは、昼飯などもそこそこに、仕事に打ち込みます。そして、自分のアイデアを具体化します。周囲の人はといえば、手伝う事があれば、言ってくれよ、とか君の考えが良いから資金も出すよとか、さまざまな形で力を合わせます。そうすると、何人かの起業家のうちで、素晴らしいものが、早い時間でしかも安いコストで出来てしまうのです。その時、「やってみなはれ！」という言葉には、あなたを信頼しているという意味すら含まれる事になります。こうして、シリコンバレーは地域の中から、世界に冠たる事業創生メカニズムを持つ事になったのです。

事業計画書という、事業情報の宝庫
ビジネスプランという言葉が、日本でも定着してきましたが、事業計画書と言ったほうが分かりやすいかも知れません。これは、一人一人が別々に出しているうちは、あまり大きな価値を持たないのですが、これが集まると、大変な情報源になります。すなわち、この情報から、創業されるビジネスの方向性がわかるのです。そのことは、新しい事業計画の価値が分かるという事でもあります。これは、一朝一夕ではできません。シリコンバレーもこれを築き上げるまでは、少なからぬ時間を使っています。その、確立する間に必要だったのが、目利きといわれる人達だったのです。
新しい技術を見て、その可能性に着目して投資や、事業形態の助言をしたり、いろいろな分野のネットワークを活用しながら、事業が発展する方向へと持って来ていたのです。1990年代の初めには、米国がいつ破産するのかという議論が主流でした。しかし、米国は奇跡とも思える経済成長を遂げてきたのです。これは、シリコンバレー型モデルのなせる業です。人間がどのようにしたらその力を発揮できるか、ネットワークという形と、人間の欲望も含めた向上心に活力を与えたのがシリコンバレーだといえるでしょう。

日本だって
先ほど書いた言葉で、「早い、高性能そして安い」というのは、かの牛丼チェーンの吉野屋の「うまい、早い、安い」を思い出させます。そして、「やってみなはれ！」の本家は、あの松下幸之助翁であります。更に言ってしまえば、ネットワークという事自体「縁」という事だと思います。これが、東洋の思想と西洋の実利社会の関わり方だと思います。時を同じくして、ナレッジマネジメントの活用法の中で、暗黙知と形式知の融合という事が重要であるとの指摘が出ています。これは、東洋の叡智と、西洋の実学の融合だと思います。世紀末のインターネットが、このような知の合一に貢献しつつ、21世紀につながって行くのだと考えるのは、実に楽しい事です。そして、多くの世界に触れる事により、目利きが現れ、プロが育つ風土が醸成されて行くのではないでしょうか。