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【本-01】 総集編 フラット化する世界 T・フリードマン著

  • 2008-01-05 (土)
フラット化する世界 T・フリードマン著 日本経済新聞社

【読後所感】
この本は、著者のジャーナリストとしてのレベルが高い上に、デジタル化のおかげで、2005年に初版が出た後、増補版が2006年に出された。 日本語版はこの版に基づいている。
しかも、更に改訂中だという。 このように改訂がなされるのは、時代の流れが速いことと、著者が内容を常にチェックし、最新情報を伝えようとしている心意気の現れである。  

そのようなジャーナリストになったT. フリードマン氏を育てた原点は他でもない、高校時代の先生(ハッティー・M・スタインバーグ)だったというところが、心を打つ。(下巻 P.160) 教育の原点は、耐えて学ぶことの大切さであると、フリードマン氏に教えてくれたということである。 教育の原点が、生き方を教えるといういい例である。


この本の日本について書かれている部分を読むだけで、世界の中での日本の位置というのが分かる。 (結論を言うと、ほとんど触れられていないということ.10年前に書かれた 「レクサスとオリーブの木」では、レクサスは主役の一つだったのに!)

読み終わって、日本の空白の15年が、社会構成の転換に対する適応不全だったということ。 これへの対処は、学んで実行するという、じつは簡単なことから始めることである。 80年代後半、日本がバブル期絶頂の頃「もはやアメリカから学ぶものはない」と声高らかに宣言した日本の経営者がいたが、日本の経済界はまだその幻影が跋扈している。 


しかし時代はすでに変わってしまっている。 以前は先輩からだけ学べばよかったが、今は「誰からでも」学ぶ力が必要である。 

情報・知識はもはやフラット。 知恵の使い方が問われる時代になったわけだ。 日本はKnowledge Management理論では90年代世界の先頭を走っていた。 しかし学ぶということが十分行なわれないまま、成果は米国を中心に吸い上げられてしまった。Mobilizing Minds という本の中味は、野中、竹中理論そのものである。

1990 年代から見ると、米国はビジネス、特に中間層の活性化、ITを利用したネットワーク構築が徹底された。 その一方、日本はビジネスの分野よりも、消費者の分野の細分化、活性化が行なわれた。 言い換えると、知恵の部分が消費者に近いところに集められたということである。 このことは、ビジネス中間層に対する活性化の「ゆとり」の部分を「温存」してきたことを意味する。 


21 世紀はすでに、物事が変化してしまっていることが、この本を読んで実感できる。 われわれはもう一度、学ぶということにきちんと取り組むべきである。  Knowledge Managementという言葉も、手法を表現する意味では使えるが、実態は「Knowledge Sharing」である。 今年は更に、真剣に取り組みたい。


現在のKnowledgeの置かれている位置についてはMITの教授であるピーター・センゲ の言葉が象徴的である。 


知識を共有することは、何かを人に与えたり、もらったりすることとは違う。 それは、情報の共有にしか役立たない。
知識を共有することは、お互いが行動につながる新しい力を発揮するための、心底から助け合うところから始まる、これは学ぶプロセスを作り上げることである。

Sharing knowledge is not about giving people something, or getting something from them. That is only valid for information sharing.
Sharing knowledge occurs when people are genuinely interested in helping one another develop new capacities for action; it is about creating learning processes.




フラット化する世界(上)フラット化する世界上.jpg
フラット化する世界(下)

世界が、なぜこんなに広がりを持ってきたのか。 それもここ10年間ぐらいの間にインターネットというツールの拡がりと共に、世界中の国ができることを「どしどし」やり始める。 その先頭を走っているのが、IndiaそしてChinaである。 筆者はNY Timesの記者をしておりこの本は、サバティカル休暇を利用して「取材」しまとめ上げられた。知的な内容で、視野が広く、そして奥行きが深い。 これは、世界の現場情報を足で稼ぐことと、Web上で起こっていることを実際に体験して、その体感から記事を書くという、ジャーナリストとして飛び切り質の高い人による本である。


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Silicon Valleyが関わることには(SV)と記する

第一部 世界はいかにフラット化したか


第一章 われわれが眠っている間に
グローバリゼーション(GLと略す)は、歴史的に見ると3段階を経てきている
    GL 1.0 国家と腕力の時代(P.21)
         1492年のコロンブスの新大陸発見から産業革命が浸透する1800年ごろまで 
 
    GL 2.0 世界統一を進める力 多国籍企業の展開(P.22)
         1800-2000年まで      
         前半は輸送コストの低減、後半は通信コストの低減が原動力

    GL 3.0 世界が狭くなり、競技場をフラットにし、個人がグローバルに力を合わせ、グローバルに競争する時代(P.23)
         2000年のバブルの遺産で、世界中に光ファイバー網が整備されていた!(特に米国とインドにも大容量が確保された)

    インドのバンガロールアウトソーシング中国大連のビジネスアウトソーシング
    しかし米国内でも、Jet BlueのカスタマーセンターのようにUtah州の家庭の主婦に仕事をまわすこともやっている。(P.60)
    MACのように、ドライブスルーの注文を、コールセンター化する試みも実施されている。(P.66)

    ジャーナリズムの世界も、GL 3.0の影響の下にあり、取材はデジカメとデジタルボイスレコーダーで行えて、すぐにBlogとしてアップできる。
    eBay(SV)の伝説的テクノロジストであるLouis Monier氏が Google(SV)に転職する(Financial Timesのスクープ)記事はJohn Battele氏のブログを通してであった。(P.73)
    (氏は今年の9月にGoogleを辞めている)

そして、第一章は次のような言葉でまとめられている。(P.76)

    人々が変化に呑み込まれるか、あるいは置き去りにされないように、変化を吸収するのが、我々の時代に課せられたやりがいのある大仕事なのだ。 どれも簡単ではない。 だが、われわれはやらねばならない。 当然の仕事であり、避けることはできない。 それをどう考察すればよいか、最大の利益をどうやって引き出すのか、という枠組みを提案するという大それた望みが本書にはある。


  

第二章 世界をフラット化した10の力
 1977年にはApple(SV)の手でパーソナルコンピュータが発売され、1981年にはMicrosoft社のOSを搭載したIBM PCが市販された。 1985年にはWindowsの最初のバージョンが発表され1990年にはWindows3.0が発売された。 これは、個人が発信者になれる(印刷技術以来の)歴史上でも画期的な出来事である。

   フラット化の要因 1 ベルリンの壁崩壊と、創造性の時代
   1989年11月9日にベルリンの壁は崩壊した。 計画経済の独裁政治から自由主義市場経済へと流れを変えた。
   このことが、インドにとっては、自国の計画主義経済で動きが取れなかった体制を、世界市場に開かれた形にすることができた。
   (同時に、ビン・ラディンにとっても、国境や体制を越えた活動ができるツールを手にした事になった)
   
   フラット化の要因 2 インターネットの普及と、接続の新時代
   WWWがCERNのバーナーズ・リーにより発明される。 1995年 Netscape(SV)によるブラウザの発明そして販売。 1995年8月9日にIPO。 オープンなやり方で普及させる。
   Microsoftが、Internet ExplorerをOSにバンドルし、ブラウザシェアを急拡大。 1998にNetscapeはAOLに売却された。
   その後、IT関連投資が一気に加速してバブルまで達し、2000年に崩壊。 しかし大容量で低価格な通信インフラは世界中に張り巡らされた。 

   フラット化の要因 3 共同作業を可能にした新しいソフトウエア
   インターネットによる分業の現場、ディズニーのアニメを世界中に分担させて組み上げるワークフローとして作成し、稼動させる。 デザイン、映像作成、音声、のベストな人がいるところへ仕事を回す。
   HTMLHTTPTCP/IPなどの標準化の手順と、AJAX技術の結合で、このような仕組みがグローバルに可能になった。 
   しかもお客が仕組みを自ら作り出すようになった。 eBayはお客から言われてPaypalを買収することを選択したし、Salesforce.com(SV)は、お客のニーズに合わせたビジネスライブラリーを提供している。
   このワークフローのソフトウエアは、ヘンリーフォードが製造業に与えた影響と同等に影響をサービス業に与えるだろう(P.133)
   そして、このプラットフォームが、フラット化の6つの要因を生み出す役割をする。 
   その要因は、アップローディング、アウトソーシング、オフショアリング、サプライチェーン、インソーシング、インフォーミングである。 

   フラット化の要因 4 アップローディング:コミュニティーの力を利用する
   1995年から2000年まではダウンロードの量が圧倒的に多かった。 2005年以降、アップロードの量がどんどん増えてきている。 そして、その中に3つの形態がある。 コミュニティー開発ソフトウエア、ウイキペディア、そしてブログとぽっどキャストである。 
   コミュニティー開発ソフトウエアではApacheというサーバーソフトウエアがあり、すでに全世界のサーバーで使われている。 IBMでは自社での開発よりもこのようなコミュニティー開発ソフトウエアと協力することがビジネス的にも、友好であることを検証した。 コミュニティー開発ソフトウエアの考え方はフリーソフトウエアの思想としてまとめ上げられている。 その内容は、できるだけ多くの人が制作や改良に参加し、無料で配布することで、グローバルな企業の支配を脱するすべての自由な個人に与えるというものである。 IBMはApacheに優秀な人財を提供することでコミュニティーでの役割を果たした。 そしてLinuxを開発したLinus Torvaldsもその仕組みに参画した。 こうして、オープンソース、フリーソフトウエア活動は、コミュニティーとしての活動を強め、ソフトウエア市場でもシェアを伸ばしてゆくのである。  
   オープンなやり方でスタートしたNetscapeは、現在ではその思想を引き継いだFirefox(SV)として、立ち上がっている。 ブラウザシェアでは16%になっているという。(2007年11月現在)
   実業の世界でも、カナダの金鉱山会社(Gold Corp)では、鉱脈データを公開し、金脈を探す公開プロジェクトを立ち上げたところ、見事に鉱脈を探り当てて、成果を上げた。(2002年)
   アップロードの一つの形が、ブログであり、それを集合させたものの一つがWikipediaである。 これが、すべて正しいというわけではないけれど、注意深く利用できるところを作り上げ使ってゆくことが、これからの社会には重要。 

   フラット化の要因 5 アウトソーシング:Y2Kとインドの目覚め
   IITは1951年の設立。 厳格な大学運営で、勉学内容の量は、世界一かもしれないといわれている。 そしてY2K問題のアウトソースがIT技術者の急増を賄った。 その後、ITバブルは弾けたが、Y2Kの実績とIT技術者の質、シリコンバレーとのつながりから、電子商取引関連の仕事を、受けるようになった。 その後、インドはITに関する世界のアウトソース拠点となってきている。

    フラット化の要因 6 オフショアリング:中国のWTO加盟
    2001年12月11日 中国がWTOに加盟 中国の加盟により、オフショアリングが急速に進む。 90年代にインドにオフショアした効果と同じことが起こり始めた。
    旧来の官僚的部分と、新規なことに挑戦する、(あぶない)起業家達との、切磋琢磨が90年代に起こった。 そして自由な報道と活動的な市民団体がなくては腐敗を根絶することはできない(P.213) しかも、重要なのは、オフショアリングだけでなく、先進国の技術の、更なる革新も視野に入れて活動する起業家達がいることである。

    フラット化の要因 7 サプライチェーン:ウォルマートはなぜ強いのか
    Wal-mart本社(アーカンソー州、ベントンビル)は、巨大なサプライチェーンの権化である。 11キロ平米に物流センターがあり、そこでは、各店舗への配送仕分けが行われ、そして各店舗からのPOSデータは衛星でここに集められ、そして仕入先へと送られる。 このサプライチェーンの運用をきっちりすることは、決して簡単ではない。 その中の大きな問題点は「グローバルな最適化」でそれは「生産拠点としての最適化=コストの安い生産拠点の選択」と「国際的物流の最適化」 これらの最適化はITに依存するケースが多く、Wal-martはその分野での実績を持つ。 1988-2000までCEOだったDevid Glassの手によるものが多い。規模と効率の最適化である(P.226) 2002年にWalmartが仕入先に販売・在庫データベースをオープンにしたことが、 Win-Win関係を構築する結果となり、Wal-Mart社の大躍進の引き金になった。 そして、サプライチェーンの売り先として日本を視野に入れている。 西友を買収しての日本進出がそれである。

    フラット化の要因 8 インソーシング:UPSの新しいビジネス
    アトランタのUPS本社。 売上げ5兆円(2006)の背後には、サプライチェーンを活用した、インソーシングを実行している。TOSHIBAの米国でのNotePCのメンテナンスはUPCが請け負っている。(P.240)
    eBay(SV)ともPaypal(SV)の支払いシステムとリンクした、顧客商品のTracking System開発で提携している。 フォードの部品や完成車の配送も請け負っている。 
    このような、米国のアウトソーシングとインソーシングについての解析は、 みずほ総合研究所の矢野和彦氏の説明が詳しい。 
    物流をサプライチェーンとして捉える発想と太平洋戦争での米軍の兵站物流行動とが深く関わっていることは、自明である。

    フラット化の要因 9 
インフォーミング:知りたいことはグーグルに聞け
    検索をインフォーミングと呼ぶ。 そしてGoogle(SV) は、あらゆる言語における世界の知識を容易に入手できるようにする ということを掲げて企業活動をしている。 インフォーミングは、アップローディング、アウトソーシング、インソーシング、サプライチェーン、オフショアリングの個人版になる(P.255)  それを人々の知りたいというニーズに結びつけ、今まで埋もれていたものが、知られることになる。 今後は、製品やサービスを消費者に対してPushするだけでなく、消費者を引き寄せるPull型の仕組みも持っていることが大きい。 
    そして、Googleの時価総額は今や、日本で時価総額が一番大きなTOYOTAを追い抜いてしまった(2007年12月28日現在)

    フラット化の要因10 ステロイド:新テクノロジーがさらに加速する
    パソコン、OS、ブラウザ、ワークフローのおかげで高速にデジタル処理ができるようになった。 それらを支える基盤技術は次のようなものである。
    ①コンピューターの計算能力、保存能力、I/O速度の急速な向上
    ②インスタントメッセージなどによる、ファイル共有テクノロジー
    ③IP電話の普及 SKYPEなど
    ④テレビ会議
    ⑤CGの発達
    ⑥Wireless Technologyの発展
    これらを使いこなすのが、企業であっても個人であっても、世界がますますフラットにつながる方向になる。    

 

三重の集束とは、10のフラット化により、個人とビジネスが新しいプロセスを作り上げ、中国、インド、ソ連からの参加者がフラット化した競技場に参加し、そして若い人たちがつながり、共同作業できる場ができたことを表す。


第三章 三重の集束


   第一の集束
   10のフラット化の要因は1990年代から起こりはじめていた。 それらは、鉛筆と紙は、別々では各役割ができない。 しかし両者が同時に存在すると互いに持つ力を大きく発揮できる。 これと同じことが、10のフラット化の中で起こり、それも、2000年ごろから顕著な力となってわれわれの周辺に出てきた。 個人とビジネスが新しいプロセスを作り上げたのが、第一の集束である。 この条件の下では、冨は三つの基本的条件を押さえている国、企業、個人に生じるようになる。 フラットな世界のプラットフォームに接続するインフラ、このプラットフォームを徹底的に活用するイノベーションを推進する教育、そして、このプラットフォームの利点を最大化し欠点を最小化するガバナンス体制。


   第二の集束
   新しいプラットフォームも、新しいビジネス手法と組み合わさったときにはじめて生産性は急上昇する。  Walmartの(世界をつなぐ水平な)サプライチェーンがもたらしたものが、水平化と呼ばれる第二の集束である。 IT導入とITの経済効果には時間遅れがある。 これは、コンピュータが変わってもビジネス自身は変わらないが、新しいビジネスプロセスとビジネススキルが揃ったときに、ビジネスが大きく変わる。水平に協力管理するには、今までの TOPDOWNではないスキルが必要になる。

   第三の集束
   フラットで水平な競技場が出来上がったところで、今まできわめて垂直なヒエラルキーに押さえ込まれていた人たちが競技場に参加してきた。 それらの国々は、中国、インド、ロシア、東ヨーロッパ、ラテンアメリカ、中央アジアの人々のことである。 これらの人々にとっては、自らが外に出ることはなく、競技場が向うからやってきたのである。 これらの国々の人たち、約30億人が、参加してきた。 すべての人たちが、従来のビジネスプレイヤーのような高い知識や教育を受けていなくても、これからの成長を約束された若者達が、熱心に追いかけてきている。 そして彼らは旧来の仕組みの持つ価値などに拘泥することなく、新しい仕組みを取り入れることができる。 


   ここでは、ビジネスのやり方に根本的な変化が起きている。 それは、今まで先を走っていたからという考えではなく、すべてがフラットで協力する仕組みに変わったという本質的な変化である。 清華大学は2004年に設立90周年式典を行った。 これは、次の100周年には世界の一流大学としての式典を行うための予備式典になっていた。 それほどまでに中国政府も大学もこの大学の将来を確信している。 あらゆる人たちがフラットな競技場に参加してきて、その中から次の技術や仕組みや、ビジネスを生み出す活動に参加できるようになった。 光ファイバーとインターネットとワークフローが世界を結んで、共同作業を拒んでいた壁をすべて吹っ飛ばしてしまったのである。   
 
第四章 大規模な整理 
   世界が、一つのグローバルな市場になるかもしれないと見たのは、マルクスが最初の人である。 その時の規範は、マルクスではブルジョワであったが、現在ではネットワークという人もいる。 実際eBayは新しい世界での新しい規範を、公開された出展者の評価に置き換えた。 これは、建設的な面での例であるが、 Wikipediaの意図的な記載や、ネットワークのテロへの利用なども同時に起こっている。 従来の近代的国家や、政府、団体、報道機関が新興のネットワークやバーチャルコミュニティーや企業と協力し、フラットな世界で活動するための新しい規範や境界を徐々に作り上げなければいけない。 フラットな世界の国内と国同士、そしてネットワーク内とネットワーク同士が、政治的な議論の最前線で行われる「大規模な整理作業」をやってゆかなければならない。 


   フラットな世界では、インソーシングとアウトソーシングが誰に真の利益をもたらすのか、考え抜かないといけない(P.335 インド対インディアナ州) そして、投資している人はフラットな世界から恩恵をこうむるが、それをもたらすのは、企業が世界中で一番利益を生むのをたやすくできるようになったからである。 このことは、それぞれの場所にいる人たちにとっては、安定した経済を約束しないところからスタートしている。

   世界がフラット化すると、小市民に大きなことができるようになるだけでなく、大人物には些細なことができるようになる。 それが、ヒエラルキーをフラット化する。

   知的財産についても、取り扱いを見直す時期に来ている。 発明者の所有で、発明のインセンティブを強めるべきという考え方の他に、社会全体で使われることが重要であるという考え方も出てきている。今までの世界で、人間的な部分にあった価値は、フラットな世界では消えてしまうかもしれない。この本は、その議論のたたき台としても使われることを願っている。


第二部 アメリカとフラット化する世界


第五章 アメリカと自由貿易 - リカードは今も正しいか?   (ここまでが上巻)

   リカードが唱えた二カ国の自由貿易は双方の利益になるという考え方は、フラットな社会でも有効かという問題がある。 現状ではサプライチェーンやオフショアリングやアウトソーシングには障壁を設けないほうが米国の大多数の個人の暮らしは良くなると考えている。(米国はINSOURCEがOUTSOURCEを超えている、すなわちよそから仕事を持ってきて稼いでいるのが現状である)
   ここでの論点は、同じパイの奪い合いになるとすると、フラット化は単純に、知的な仕事の奪い合いになるだけであるが、リカードの考え方は、双方にとってメリットが出る状況が生まれるというものである。
   
   事情を簡素化して、次のような考え方をすることができる。
   米国には100人の人がいて、知的労働者が80人/単純労働者が20人 中国には1000人いて、知的労働者が80人/単純労働者が920人だったとする。
   フラット化により知的労働者は160名となる。 その時の市場は、全体では1100名となり、知的労働者たちの競争は激しくなるが、今までになかった新しいものが生み出される可能性も増える。 今までの知的労働者の経てきた歴史が証明している。 しかし、単純労働者は合計で940名となり、この分野はフラットで、流動化が起これば、この部分は競争が激しくなる。 すぐにでも安い労働力へと置き換えられてしまう。 この部分は教育でカバーすることが必要である。

   米国の産業界は、150年前は農業が中心であった。しかし20世紀には製造業、そして戦後、特に最近30年間はサービス業への転換が起こっており、それも今までなかったような仕事が知的労働者達から生み出されている。 リカードの唱える比較優位が、新しい仕事を、冨を生み出して個人に還元している仕組みになっている。 過去のアウトソーシングや製造拠点を海外に移転することにより、会社自身が成長し、海外でも国内でも雇用を増やすということが実際に起こっている。 これは、地域をつないだときに今まで普通に起こってきて事でもある。 カリフォルニアと、ニューメキシコが鉄道でつながったときも、ニューメキシコの経済がカリフォルニアに破壊されると考えた人たちもいたが、現実には、両者が経済的に発展してきている。 自分達の技術を高めて、大きくなったパイの分配を考えて進むことが(経済的な)成功の秘訣なのである。

第六章 無敵の民 - 新しいミドルクラスの仕事          (以下下巻)フラット化する世界下.jpg

   フラットな世界には適切な知識と技倆と発想と努力する気持があればものにできるいい仕事が山ほどある。 このやりがいのある仕事は楽ではない。 今後フラット化で失われる仕事の大半は、中国やインドへのアウトソーシングではなく、過去にアウトソーシングされてしまう。

   新ミドルクラスの仕事はといえば、偉大な共同作業者・まとめ役、CIOはCheif Integration Officerになるであろう。 偉大な説明役、偉大な梃入れ役、偉大な適応者、パーソナライザー(その人しかできないことを持つ人)そして、偉大なローカライザーたち。 いずれもその人ならではの技倆で生きている人たちである。

第七章 理想の才能を求めて - 教育と競争の問題

   学び方を学ぶことが教育の根本である。 
   IQよりも重要と考えられるものがある。 CQ(C=Curiosity 好奇心) PQ(P=Passion 情熱)
   人とうまくやること
   右脳を使い、統合的に考えること そして、物語を語り、知性を持つものを創造し、ネットワークを創造できることが重要

   米国の産業政策は、NYSEやNASQAQのような投資市場があることである。 それが既存のビジネスからは出てこないような革新的なテクノロジーに投資することができる。そして、その運用は開かれた社会に必要な信頼を確保することに注力される。 その結果、一般の人もその市場に参加し、投資する流れができる。 信頼という固い基盤は、そのために重要である。

第八章 静かな危機 - 科学教育にひそむ恥ずかしい秘密

   米国の中等教育以上で、自然科学や工学に進む学生は圧倒的に減っている。 その分インドや中国の学生達が留学してきている。
   一方、MBAの学生達は増えている。 自然科学や工学は、必ずしも面白くない基礎をみっちりやってからでないと、先に進めない。 米国はその部分で苦労を強いる教育を放棄してしまった。
   アウトソーシングの拡がりで、仕事の質は高まり、生産性が上がりコストが下がった。 これは天然資源のない国にとっての人的資源の質の向上と結びついている。 

   教育レベルの高くない人たちには、決して質のいい仕事は来ない。 だから、それらの人たちが意欲的に勉強する仕組みを作らなければならない。 しかし、古くからの制度は、貧しい人たちへの教育にはお金が回らないようになっている。
   インターネットのスピードやコストも米国は遅れている。 フラットな社会における重要なインフラが遅れていることは、仕事の中味にも悪い影響をもたらす。

   まだ、中国やインドにおいては、創造的な研究をするまでの人材は十分ではない。 米国企業はすでに、優秀な人のいるところに積極的な投資をし、研究所を設立している。 
   Inteはロシア、中国、インド、マレーシア、イスラエルに。 企業自身はすでにフラットな世界でのビジネス展開になっている。 

第九章 これはテストではない

   経済は戦争とは異なり Win-Winの関係を構築することができる。 今後必要な要素を挙げると
   ・変革に必要な危機意識を持つこと そしてリーダーシップを発揮すること。(ケネディが月に人を送り込むと約束したように)
   ・雇用される能力をつけるための教育の機会、社会保障の整備 Cross Trainingも重要
   ・転職後の下がった賃金の補償などのセーフティーネットの拡大
   ・グローバル企業の持続可能な企業活動による、社会的責任の遂行が
   ・家庭内で、子供達に勉強させるしつけの徹底

   これらはすぐそこまで来ていて、インドや中国にとっての将来は、米国を追いかけることとしてみている。 もはや、米国にはさらに速いスピードと、質で教育を進めてゆくことしかのこされていない。 これは(警報)テストではない。


第三部 発展途上国とフラット化する世界

第十章 メキシコ守護聖人の嘆き 
   ラマダンに使うメキシコ守護聖人をかたどったランプも、現在ではメキシコ製ではなく中国製になった。 メキシコの地場と思われるビジネスが中国に市場を取られてしまう。 これは、メキシコ政府が自分達の置かれているフラットな世界での立場を理解されていなかったために起こった一つの事例である。 自分を観察することがフラットな世界では重要。 生活が向上するような生産性の高い雇用が存在するかが大きな問題。 この原因は、メキシコが国としての成功に向けてに投資や改革ができないことにある。
   
   小売改革と呼ぶ内容が対応できる国は、フラットな世界でのプレーができる。 
   IFCによればその要因は5つあり、
   1.自国の規定や規制や認可費用の下での起業
   2.雇用・解雇 
   3.契約の執行
   4.融資 
   5.破産もしくは業績低迷による廃業
   
   この成功例はアイルランドである。 1996年から大学教育は無料、法人税12.5% 柔軟な労働法で、この対応で新しい仕事が次々と生まれる。「最高の教育を受けた人々がいて、インフラが整っていて、政府が協力的なところに仕事は集まる。 

   自主的に変わろうとする各国の動きは、相互にいいものをもたらす。 


第四部 企業とフラット化する世界

第十一章 企業はどう対処しているか


   ルールその1
   世界がフラット化してぺしゃんこにつぶされそうだと思ったら、スコップを持って内面を掘り起こせ。 壁を築こうとするな。


   ルールその2
   小は大を演じるべし・・・大物ぶるのが、フラットな世界で小企業が繁栄する一つの方法だ。 小が大を演じる秘訣は、より遠く、より速く、より深いところを目指し、共同作業の新しいツールを速やかに利用することだ。


   ルールその3
   小は大を演じるべし・・・顧客が大物ぶるように仕向け、自分は小物として振舞うすべを身につけるのが、大企業がフラットな世界で繁栄する一つの方法だ。


   ルールその4
   優良企業は優良共同作業者である。 フラットな世界では、多くの事業が企業内・企業間の共同作業によって行われるようになる。 理由はいたって簡単だ。 テクノロジー、マーケッティング、バイオメディカル、製造のいずれの分野でも、バリュー創出の次の段階はきわめて複雑になるから、独力でそれをマスターできる会社や部・課はどこにもない。


   ルールその5
   フラットな世界では、定期的にX線検査を受け、結果を顧客に売り込むことで、優良企業が健康体を維持する。


   ルールその6
   優良企業は、縮小するためでなく、勝つためにアウトソーシングする。 それは速やかに安くイノベーションを行うためのアウトソーシングであり、おおぜいを解雇して金を節約するのが目的ではない。 それによって成長し、シェアを伸ばし、いろいろな分野の専門家をより多く雇う。


   ルールその7
   アウトソーシングはベネディクト・アーノルズだけのものではない。 理想主義者のものである。   


第五部 地政学とフラット化する世界

第十二章 フラットでない世界 - 銃と携帯電話の持込は禁止です
   国民が希望を抱く国には中流階級がいる。
   インドの農村部は、これからいかにグローバリぜーションをしてゆくのか、いい見本になるはず。
   アラブ、イスラムの壁は、グローバリゼーションの観点からは、逆行している。 そして、過激派に対して、イスラム世界では論陣を張ることを控えている。 このことが、イスラム過激派を孤立させ、戦闘的な集団としての活動を行わせている。 このままでは、イスラム世界はますます孤立するだけだ。

第十三章 ローカルのグローバル化 - 新しい文化大革命が始まる
   前著「レクサスとオリーブの木」では、世界の文化に対するグローバル化の考察が十分できていなかった。 しかし、フラット化の持つ影響力の大きさが、 2000年以降で比較できないくらい大きな影響を与えていることが分かる。 そしてそれはグローバル化=アメリカ化として捉えられてきた。 ところが、文化という面で考えれば、アップローディングは、自らの場所からグローバルに発信できることを意味する。 現在われわれはローカルをグローバル化する強力な手段をすでに手にしていることがわかる。

   グローバル化は新しい形でのコミュニケーションや、イノベーションをそこに含んでいる。 しかし、これは犯罪組織やテロ組織も利用できるという面も同時に考えておかなければならない。
   そう、文化大革命はまだ始まったばかりである。 ツールはiPodであるが。

第十四章 デルの紛争回避理論 - オールド・タイム vs カンバン方式
   自分が買ったDellのLaptopのサプライチェーンの実態が分かった。 すべての部品が、どこから購入され、誰の手で組み立てられ、どうやって送られたか、時系列で追いかけることができた。国の経済がつながるほど、戦争のリスクは減るというのが私の持論だった。(言い換えると、マクドナルドが出店している国同士は戦争をしないということである) グローバルは貿易と生活水準の向上ということが進んでいる国々にとって、戦争の代償はあまりに高いということである。 台湾も中国からの独立という政治の選択肢は採らずに、現状の貿易や本土との関係(グローバルなサプライチェーン)を続けるほうが良いという選択をした。

   グローバルなサプライチェーンでは、顧客にとっての選択肢は多岐にわたるが、その中に組み込まれたビジネスは一瞬たりとも止められない。 だから、政治や戦争に巻き込まれては、ビジネスを失ってしまうリスクが大きくなる。 そうなると、グローバルのサプライチェーンは、ビジネスの円滑な運用を第一とするので、戦争や経済活動を阻害するような政治行動を極力避けることになる。 

   そのような利用法とは異なるが、オープンソースとグローバルサプライチェーンを使いこなしているのが、アルカイダである。 テロへの国際的なサプライチェーンを構築し、運用している。 インターネットが バベルの塔 と同じように目的が「神になること」であるとすれば、ビン・ラディンのような使い方になる。 しかし、お互いに意志を伝え、共同作業を行なう新しい能力を、正しい目的のために使わなければならない。  


結論   イマジネーション


第十五章 二つの選択肢と人間の未来 - 11・9 vs 9・11
   世界が形作られた二つの日付 11/9 (1989)と9/11(2001) このうち前者はベルリンの壁を開いた創造的なイマジネーションとなった。 ハンガリーの西ドイツ大使館に東ドイツの難民が逃げ込み、その2ヵ月後ハンガリーとオーストリアの国境出入り禁止を撤廃した。 その2ヵ月後、ベルリンの壁は民衆の前で打ち壊された。 そして後者は世界貿易センタービルにあったレストラン、ウインドウズ・オン・ザ・ワールドを破壊し、前者が破壊したと思われた厚い見えない壁を新たに築いた。 それぞれに、イマジネーションを持った人間たちがいて、語り合ってそれを実行したのである。 とりわけ後者は、人を殺すという悪意を持った形で。 

   現代は、今まで以上にイマジネーションの力が必要な時代である。 とりわけ、建設的なイマジネーションが今ほど重要な時はない。 JetBlueの創業者デビッド・ニールマンも、イマジネーションを働かせて会社を立ち上げてきた。 世界がフラットになるというのは二つの選択がある。 一つはイマジネーションを使って、他人を同じレベルまで引き上げるというもの。 もう一つは、他人を同じレベルまで引きずり落とすというもの。 もちろんわれわれは前者を望む。 そのためには、われわれはイマジネーションの主人になることが必要。 9/11のあと、米国は他の国に希望ではなく、恐怖を輸出するようになった。 ブッシュ大統領が世界から嫌われるのは、9/10の時代にあった、夢と希望の米国を9/12以降共和党、極右派の持つ税制や環境・社会問題に対する国内政策に利用したからである。

   eBay(SV)は、ユーザーの透明な評価をもって、オークション取引に対する基準としている。 その評価コミッティーには評価で認定された資格を取り消す権限もある。 そして、出店する多くの人たちの評価はそれぞれに優れている。 なんと米国の証券取引監視委員会(SEC)委員長が、eBayでの自分の評価が高いことに、心から満足して、わざわざ電話をしてきたことがあったそうだ。 このことから「人間を信じる」ことの価値を実感するとCEO メグ・ホイットマンも言っている。

   インドは実は世界第二のイスラム教徒の多い国であるが、この50年間で持続的な民主主義の恩恵をこうむってきて、優秀なミドルクラスを出すコミュニティーにはインド政府は経済発展の機会を与えている。  独裁的な政治体制の中での怒りの行動としてのイスラム教になっていないことが、大きいと考えられる。 それと対照的なのは、パキスタンのイスラム教徒たちで、インドのイスラム教徒との差をこのように表現できる。 生活が豊かになり、きれいで素敵な家に住むことができたひとを見て、インドのイスラム教徒は「いつか、自分もそうなりたい」と思うのに対し、パキスタンのイスラム教徒は「いつか殺してる」と憎悪で見る違いであろう。

   フランス革命、アメリカの独立、インドの民主主義、eBayの基盤となる社会契約はすべてボトムアップから生まれている。 自分達の集団を改善する力は自分達が持つ。 そこにいる人がやることは、次は誰のせいかを問うのでなく、「何をするか」に集中できる。

   「人間は変わらなければいけないところまで追い込まれないと、変われない」「一つの好事例は1000の論理に勝る」。 アラブ人でNASDAQ上場を果たしたアラメックスという会社がある。こんな実例が、いくつか出てくれば、今までの環境を全く違う目で見ることができる。 

   世界には米国のような楽天主義が必要と考える。 それは夢多い(未来を考える)社会の方が、思い出の多い(過去に思い浸る)社会よりも、未来に向けて動き出す力が強い。 そしてわれわれも子供達も、未来にしか生きられない。

   著者あとがきは、この本のできるまでの綿密な情報収集と、情報収集先が格段に優れていることを示している。 そして、1年間という時間をかけて、仕上がった本である。 前著「レクサスとオリーブの木」を書いた20世紀と、現在が大きく異なることが良くわかるし、裏づけのデータも一つ一つが具体的になっている。


   訳者あとがきには、「本書は個人が(どういう立場にあるにせよ)グローバリゼーションの時代を生き抜くための必読の書である。」とある。 同感である。


      
      



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